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名古屋地方裁判所 昭和44年(行ウ)47号 判決

岐阜市京町一丁目六一番地

原告

合資会社椿温泉

右代表者無限責任社員

大沢のぶよ

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

同市千石町一の四

被告

岐阜北税務署長

天野重夫

右指定代理人

松崎康夫

渡辺宗男

鈴木伸

浅井良平

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

「一、名古屋中村税務署長が、原告の昭和三九年五月一日から同四二年四月三〇日までの各事業年度の法人税につき、同四三年六月一五日付でなした別表(一)「更正額」欄記載の各更正処分(ただし、同四一年五月一日から同四二年四月三〇日までの事業年度については、異議決定による一部取消後のもの)のうち、同表「原告主張額」欄記載の各所得金額・法人税額をこえる部分を取消す。二、同署長が、原告の各給与支給分につき、同四三年六月一五日付でなした別表(二)「納税告知処分本税額」欄記載の金額を各本税額とする源泉徴収にかかる所得税の各納税告知処分(ただし、同四二年六月支給分については、異議決定による一部取消後のもの)のうち、同表「原告主張額」欄記載の各金額をこえる部分を取消す。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二、当事者の主張

(請求の原因)

一、原告は昭和三九年五月一日から同四〇年四月三〇日まで、同年五月一日から同四一年四月三〇日まで、同年五月一日から同四二年四月三〇日までの各事業年度(以下、順に係争第一、第二、第三年度という。)の法人税につき、それぞれ法定申告期限内に名古屋中村税務署長に対し別表(一)「確定申告額」欄記載のとおり確定申告をした。

二、中村税務署長は原告の右申告につき、同表「更正額」欄記載のとおり各更正処分をし、昭和四三年六月一五日付原告に通知した。

三、同署長は、原告が前記各事業年度中にその代表者太沢のぶよに対し利益処分による賞与として支給した金員につき、昭和四三年六月一五日、別表(二)「法定納期限」「本税額」欄記載のとおり源泉徴収にかかる所得税の各納税告知処分をした。

四、原告は右二、三の各処分につき、昭和四三年七月一五日、中村税務署長に対し異議申立をしたところ、同署長は同年一〇月一一日係争第三年度法人税の更正処分につき、別表(一)「異議決定(額)」欄、また、法定納期限同四二年七月一〇日分の納税告知処分につき、別表(二)「異議決定(額)」欄各記載のとおり処分の一部をそれぞれ取消す決定をし、その余の各更正処分および各納税告知処分についての異議を棄却した。

五、さらに、原告は昭和四三年一一月一五日、名古屋国税局長に対し審査請求をしたが、同局長は同四四年六月一九日いずれも棄却の裁決をし、同日付原告に通知した。

六、しかし、前記各事業年度の各法人税更正処分(ただし、係争第三年度については、異議決定による一部取消後のもの。以下同じ。)は別表(一)「原告主張額」欄記載の各金額をこえる部分につき、また、前記各納税告知処分(ただし、納期限昭和四二年七月一〇日分については、異議決定による一部取消後のもの。以下同じ。)は別表(二)「原告主張額」欄記載の各金額をこえる部分につき、それぞれ違法であるから、右各部分は取消されるべきである。

七、原告は昭和四三年一一月五日、その本店を名古屋市中村区椿町二丁目一九番地から原告肩書地に移転し、原告に対する国税の賦課徴収権限は被告が承継した。

(請求原因に対する認否)

請求原因一ないし五および同七本店移転の事実を認める。

(被告の主張)

一、原告は湯屋業・化粧品雑貨販売業を営む合資会社であり、昭和四三年一一月五日まで前記名古屋市中村区椿町に本店(椿温泉)、原告肩書地に支店(千石湯)を置き、毎年五月一日から翌年四月三〇日までを事業年度と定めていた。

二、原告の係争各年度法人税確定申告について調査の結果、原告はその売上の一部を除外して簿外預金とし、他にも簿外利益があるなどの事実が判明したので、名古屋中村税務署長は昭和四三年六月一五日、別表(三)「被告主張額」欄記載のとおり本件各更正処分をしたものであるが、右各処分の加算、減算根拠および計算過程は次のとおりである。

1. 加算項目

(一) 売上除外(別表(三)2(1))

(1) 原告は本件各係争年度中、訴外岐阜信用金庫忠節支店に仮名で簿外預金たる普通預金口座(江尾幸子、東京子、杉山領一各名義)(以下、本件預金口座という。)を開設し、その売上による収益の一部を秘匿していた。

(2) そこで、中村税務署長は右簿外預金の預入内容を調査し、その預入金額から右各年度における原告の営業活動に関係がないと認められる入金額はこれを除外し、その余を原告の売上除外による簿外収益と認定したが、その認定額を各口座・各年度別に示せば別表(四)の「被告主張額」欄記載のとおりであり、その詳細内訳は別表(五)の「被告主張」欄記載のとおりである。

(3) さて、原告の主張する各入金事由はいずれも根拠に乏しく、売上除外であることを否定するにたりない。その理由は次のとおりである。

イ、預金利息

本件預金口座が原告に帰属するものである以上、これに訴外大沢のぶよの個人資金が一時的に預入れられたととしても、それは原告が同訴外人から仮受けしたものとみるべきで、右仮受金の利息につき原告・同訴外人間で別途に考慮すればたり、右預金利息はすべて当然に本件預金口座所有者たる原告に帰属する。

ロ、訴外大沢のぶよの受取給料・家賃

原告が同訴外人に給料・家賃を支払つた日と同日またはそれに近い日に同訴外人は本件預金口座から生活費の不足分として毎月五万円前後を払い出しておきながら、その一方で旬日を経ずして給料・家賃を預入したとする月の生活費と右預入のない月のそれとの差違が著しいことなど、きわめて不自然であり、また、原告主張の給料・家賃預入額が当月に受領した給料・家賃合計額を上回ることから、同訴外人の給料・家賃の預入は、預入金の出所を原告の売上金以外に求めるための口実である。

ハ、貸付金返戻・同利息

貸付金の返金・利息入金の事実は原告自身具体的に明らかにできない不明確なもので、結局これも預入金出所の口実にすぎないものというべきである。

ニ、配当金

原告主張事実を争う。

(4) 原告が売上除外と認めた金額についてはその金額をそのまま原告の所得として加算すべきであり、原告主張のごとき控除すべき金額はない。また、仮りにあつたとしてもごくわずかである。

イ、原告が飲料水・石けんその他の化粧品(以下、飲料水等という。)の売上高の一〇%を販売収益として帳簿に記載していたことは認めるが、本件預金口座は原告の飲料水等の売上代金預入・仕入代金の支払とは無関係である。すなわち、本件預金口座の払出がもつぱら訴外大沢のぶよの個人的使途にのみなされていることは従来原告自ら認めていたところであり、また、預金の入出金を原告作成の飲料水等売上日計表と対象しても、右預金について飲料水等の売上代金の預入・同仕入代金の支払があつたと認めるには金額的に不自然な点が多く、さらに本件預金口座とは別に大沢信子名義の普通預金が存在することをも考えあわせると、原告主張の飲料水等の売上代金の預入・仕入代金の支払は、本件預金口座とは無関係に管理運用されていたものと推認される。

ロ、仮りに飲料水等の売上代金の預入・仕入代金の支払が本件預金口座を通じて行なわれていた事実があつたとしても、

a、小口の営業用資金運用のために開設された預金の預入・払出の直後には手持現金はないのが通常であるから、本件預金口座の場合にも、原告が預入可能な売上計上もれ額は原告が現金を預入・払出した日以降預入日の前日までの原告主張売上計上もれ額の累計額をこえるものではありえない。しかるに、原告が飲料水等の売上代金の預入と主張する預入額には右累計額をこえるものがあるから、この超過部分は飲料水等の売上代金以外の売上すなわち入浴料売上とみるべきであり、その額を計算すると次のとおりとなる。

係争第一年度 四一七、三〇二円

同 第二年度 三九六、六一二円

同 第三年度 一一六、六七三円

b、また、原告は本件預金口座から毎月末に仕入代金を支払つたと主張するが、月末に本件預金口座からの払出がない月、払出があつてもその額が支払に要する額に満たない月があり、仕入代金のうち本件預金口座からの払出がないと思われる数額については本件預金口座以外の収入除外金から支払われたものと認められる。その数額は次のとおりである。

係争第一年度 二一八、二四八円

同 第二年度 二一九、七〇四円

同 第三年度 二四〇、九九〇円

c、従つて、原告主張の仕入代金もれ額から右a、bにより仕入代金として控除する必要のない金額を差し引いた後の金額を仕入代金計上もれとして認容するとしてもその額は次のとおりである。

係争第一年度 二二、八四二円

同 第二年度 四六、三一〇円

同 第三年度 四三七、八九二円

(二) 法人税額の還付金等減算誤まり

原告の係争第二年度の確定申告書で法人税・県民税・市民税等の還付税額として減算した金額二五、五一四円は二〇、三五〇円が正当額と認められるので、その差額五、一六四円を原告の減算誤まりとして否認した。

(三) 補償金もれ

(1) 原告は名古屋市土地区画整理事業に伴い区画換地となつた土地上の原告所有物件移転に伴い、昭和四二年四月二八日、補償金三、九五五、四〇三円を同市から交付されたが、そのうち三一八、九八七円を雑収入勘定、一、五九四、九三九円を仮受金勘定と経理し、残余の二、〇四一、四七七円については会計帳簿に記帳せず簿外利益とした。

(2) しかし仮受金として経理できるのは、一、五〇七、〇四〇円であるからその余の八七、八九九円と、簿外経理した二、〇四一、四七七円を益金としその合計額から立退により除却された資産の帳簿残額四八九、九五三円を損金として減算のうえ、差引一、六三九、四二三円を補償金計上もれとして加算した。

2. 減算項目

未納事業税

法人が各事業年度に納付しまたは納付すべき事業税は、法人所得の計算上損金の額に算入されるものであるから、本件各係争年度の法人所得が本件更正処分により増額となり、これに伴い損金計上される事業税は次のとおり計算され、その各金額が原告の法人所得より減算される。

〈省略〉

3. 以上のとおり本件各更正処分は適法であり、また仮りに、前記のごとく一部仕入代金(仕入原価)もれ額を認容して原告の所得金額を計算するとしても別表(六)の4.差引所得金額欄記載のとおりとなり、この限度で適法である。

三、原告は訴外大沢のぶよの給与(賞与)につき源泉所得税を徴収し、これを納付すべきである(所得税法六条、一八三条一項)のにこれを怠つたので、中村税務署長は国税通則法三六条一項二号により別表(二)「本税額」欄記載のとおり本件各納税告知処分をしたものであるが、その根拠は次のとおりである。

1. 前記のとおり原告はその売上の一部を除外し、簿外預金としていたのであるが、右預金からの払出金は原告の収入原価・経費等に支出したのではなく、本件事業を支配し本件預金口座を管理していた原告代表者大沢のぶよが個人的使途に費消したと認められるので、その金員は原告が被用者たる大沢のぶよに対して給与(賞与)として支給したと認定すべきであり、その数額は次のとおりである。

係争第一年度 一、四六四、八五二円

同 第二年度 一、五〇三、五一九円

同 第三年度 一、〇六二、六四八円

右金額は原告の本件預金口座から払出された各年度の払出金の合計額から当該年度において右大沢の個人資金預入額の払出と認められる金額および本件預金口座間の振替のための払出と認められる金額を控除して算出したもので、その算出過程は別表(七)のとおりである。そして、右大沢の右収入金額はこれを所得税法上の所得区分にあてはめれば法人の利益処分たる賞与であり給与所得に該当する。

2. なお、給与支給認定についての原告主張は誤まりである。すなわち、通常雇用者が被用者に対して支給する金額は、それが資産譲渡の対価または資産の賃借料等明らかに労務の対価と認められないものを除いては給料または賞与の支給すなわち給与と認定するのが合理的であり、とくに本件では右大沢が代表者として原告に役務を提供したことに対し、原告が被用者たる大沢に前記金額を支給し同人が受益したのであつて、右支給につき労務の対価以外のものと認める要因がないから、右支給金額を給与と認定したのは合理性がある。

(被告の主張に対する認否および原告の主張)

一、被告の主張一の事実、同二の事実中一部売上除外があつたことは各認め、別表(三)記載の「被告主張額」に対する認否は同表「原告の認否」欄記載のとおりである。

二、被告の主張二1.加算項目(一)売上除外のうち、(1)の事実は認め、(2)の簿外収益認定額(別表(四))および内訳(別表(五))については「原告認容額」欄(同(四))および「原告の認否」欄(同(五))記載のとおり認否する。

三、同加算項目(二)法人税額の還付金等減算誤まり、(三)補償金もれについては、被告主張事実を認める。

四、同2.減算項目未納事業税の計算関係および三1.の計算関係は認めるが、その余は争う。

五、右二において売上除外による簿外収益であることを否認した分につき、原告が主張する入金事由は別表(五)「入金事由」欄記載のとおりであるが、右各事由による入金が原告の所得に加算されない根拠は次のとおりである。

1. 預金利息

本件預金口座には原告の営業に無関係な訴外大沢のぶよの多額の個人資金が預入れられているから、預金利息の全額を原告の収益とみることができないことはもちろん、原告の売上金預入に対応する利息部分の割合も明確にできないので、このような場合は利息全額が課税の対象とならないというべきである。

2. 訴外大沢のぶよの受取給料・家賃

同訴外人が原告から支払いをうけた給料・家賃を預入れたものであり、同人の個人資金である。

3. 貸付金返戻・同利息

訴外大沢のぶよが夫の交通事故によつて支払いを受けた賠償金を、各種民主団体の運営資金のために貸付けていたものの利息の支払、元本の返済を受けて本件預金に預入れたものである。しかし、借用証書も作成されていなかつたので、個々の預入金がどの団体からの返済であるかは現在では明らかにできない。

4. 配当金

訴外大沢のぶよが夫から相続した株式に対する配当金である。

六、前記二において売上除外による簿外収益であることを認めた分についても、その全額をそのまま原告の所得に加算すべきではなく、次の金額を控除すべきである。

すなわち、原告は浴場内で販売する飲料水等について、その売上高の一〇パーセントを販売手数料として正規の帳簿に計上し、その余の九〇パーセントは数日分まとめて本件預金口座に預入れていたが、各月末の右飲料水等の各仕入先への支払は右口座からしていた。従つて、前記原告の認める売上除外額から右仕入支払高(前記売上高から正常利益二〇%を差引いたもの)を控除したものが原告の所得に加算されるべきである。原告作成の売上日計表等(別表(二))に基づき再計算すると、飲料水等の計上もれ売上・仕入・計上もれ利益の金額は次のとおりであり、右仕入金額を前記売上除外額から控除すべきことになる。

係争年度 計上もれ売上金額 仕入金額 計上もれ利益

第一年度 七四〇、六九一円 六五八、三九二円 八二、二九九円

第二年度 七三八、〇四五円 六六二、六二六円 七五、四一九円

第三年度 八六六、七八一円 七九五、五五五円 七一、二二六円

七、前述のとおり、本件預金口座の入金中被告が売上金の預入と認定した中に訴外大沢のぶよ個人の受取給与・家賃の預入金が含まれており、また右口座からの払出中には原告の飲料水等仕入代金支払のための払出金が含まれているのであるから、被告主張の算出金額をもつて直ちに同訴外人に給与(賞与)として支給されたということはできない。また、給与の支給は役務の提供・役務の評価・その評価額の支払・それによる相手方の受益の各事実が具体的に特定されなければならず、単に売上金が正規の帳簿に記載されず、あるいはその簿外預金からの払出金に使途不明分があるなどの事実だけから給与の支払と推認することは合理性がない。

第三、証拠

(原告)

甲第一号証の一ないし八、同第二号証の一、二、同第三、第四号証、同第五号証の一ないし三、同第六、第七号証を提出し、証人藤田ミツヱ、同高島康彰、同久米為子、同滝沢和男、同浅野正行の各証言、原告代表者本人尋問の結果を各援用し、乙第一ないし第四号証、同第六号証の一ないし三、同第七ないし第九号証、同第一一、第一二号証の各成立(但し、同第六号証の三は原本の存在と成立)を認め、乙第五、第一〇号証の成立は不知である。

(被告)

乙第一ないし第五号証、第六号証の一ないし三、同第七ないし第一二号証を提出し、証人福田己代治、同森敏幸、同山口徳市(第一、二回)の各証言を援用し、甲第五号証の一ないし三、同第六号証の各成立を認め、その余の甲各号証の成立は不知である。

理由

一、原告が湯屋業・化粧品雑貨販売業を営む合資会社で、毎年五月一日から翌年四月三〇日までを事業年度と定め、昭和四三年一一月まで被告主張の本店・支店において営業していたことおよび原告主張の経緯で本件各更正処分・各納付告知処分がなされたことは当事者間に争いがない。

二、さて、被告主張の別表(三)、(四)記載各係争年度売上除外による原告所得加算額について、原告が岐阜信用金庫忠節支店に仮名である江尾幸子、東京子、杉山領一ら各名義の普通預金三口座(以下、本件預金口座という。)を開設し、その売上除外による収益につき、同各別表原告認容額欄記載のとおり預入れていたことは当事者間に争いなく、この事実に、成立に争いない乙第一ないし同第三号証、証人福田己代治の証言、原告代表者本人尋問の一部結果を併せ考えると、原告会社はその事業による売上収益を数日分とりまとめ、前記支店職員が集金に来た都度本件預金口座に預入れていたこと、本件預金口座各元帳上も二、三日または数日の間隔で継続的に預入が記帳されていること等の各事業を認めることができる。してみると後述のとおり本件預金口座に原告代表者大沢のぶよの個人的資金預入の事実が認められないでもないけれど、その預入の金額等につき個別的にこれを特定しえない本件においては、反対の証拠がない限り、本件預金口座は原告会社の簿外預金として、その預入を一応原告会社の簿外の資金によるものということができる。従つて、被告主張のとおり各係争年度原告所得額について売上除外を加算したことは相当である。

三、ところで、原告は売上除外について別表(五)「原告の答弁」欄記載のとおり、各入金(預入)事由を主張して原告の所得に加算すべきでないとするので、以下判断する。

1. 預金利息

後記23において認定するとおり、原告代表者大沢のぶよの個人的資金が本件預金口座に預入された事実がないではないが、右を個別的に特定しえない本件においては本件預金利息は原告に帰属するものというべきである。従つて、本件預金利息を加算すべきでないとする原告主張は採ることができない。

2. 訴外大沢のぶよの受取給料・家賃

成立に争いのない乙第四号証、証人山口徳市(第一回)の証言により真正に成立したものと認めることができる同第五号証、同証人の証言、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は訴外大沢のぶよに対し係争第一年度において、毎月末に給料約三七、三七〇円(ただし、四月分は三七、六一一円)七月ないし一二月、一月末に賃料平均五〇、〇〇〇円、同第二年度は毎月末に給料四一、七五五円(ただし、四月分は四一、九三五円)、賃料四〇、〇〇〇円、同第三年度は毎月末に給料四一、一三六円、賃料平均四〇、〇〇〇円(ただし、一一月、一月を除く。)を各支払つたこと、同訴外人は本件預金口座から各係争年度中毎月末ごろに五〇、〇〇〇円前後を生活費として払い出していることをそれぞれ認めることができ、右認定を覆えすにたりる証拠はない。右認定事実によれば、右大沢に対する給料・家賃支払日とほぼ日を同じくして同人が本件預金口座から右生活費を払い出しているのであるから、右払出は本来生活費に当てるべき給料・家賃の不足を補うためのものと考えることができる。

ところで、同訴外人の受取給料・家賃の本件預金口座預入は、原告の主張によると、各係争年度を通じほとんど月の上旬に二〇、〇〇〇円ないし八五、〇〇〇円の金額が預入されたことになり、例えば原告主張にかかる係争第一年度昭和三九年六月五日三〇、〇〇〇円の預入は、前記認定の右口座同年五月三〇日五〇、〇〇〇円の生活費払出と時日を接してなされたことになる(他の預入の場合も同様である。)が、前記認定のとおり同訴外人は右五〇、〇〇〇円を生活費不足分として払出しておきながら、その一方で右のごとく時日を接して給料・家賃三〇〇、〇〇〇円(前記認定の支払給料・家賃の一部)を預入することは不自然であり、また、同人が給料・家賃を預入したと主張する月、例えば前記年度六月分の生活費(支払給料・家賃と払出生活費の合計額から右預入額を差し引いたもの)は前記認定のとおり約五七、三七〇円となるが、右主張のない月、例えば同七月分の生活費は一一七、八七二円となつて両者の差違は著しく、通常ほぼ一定額であるべき生活費の性質上、かかる差異があるのもまた不自然と考えられる。従つて、原告の主張自体合理性を欠き肯認できないし、また受取給料・家賃を手元に置かず本件預金口座に預入したとする原告代表者本人尋問の結果は右各事実に照らし措信できず、他に原告の主張を認めさせるにたりる証拠はない。

従つて、原告の前記給料・家賃預入の主張は採ることができない。

3. 貸付金返戻・同利息

証人久米為子の証言により真正に成立したものと認めることができる甲第一号証の一、同滝沢和男の証言により真正に成立したものと認めることができる同号証の三、四、原告代表者本人の尋問の結果により真正に成立したものと認めることができる同号証の五、同久米為子、同滝沢和男の各証言、原告代表者本人尋問の結果によれば、訴外大沢のぶよ(通称大沢信子)は岐阜市内所在の岐阜県各種婦人団体連絡協議会に対し、訴外久米が同協議会事務局長になつた昭和三九年五月ころから同四〇年五月八日までに合計二〇〇、〇〇〇円を貸付け同四二年三月二三日までに少額ずつ返済を受けたこと、同市内所在岐阜県平和委員会に対し同四〇年六月一六日二〇、〇〇〇円、同年一〇月三日九〇、〇〇〇円を貸付け、同年一二月二九日後者のうち三〇、〇〇〇円のみ返済を受けたが他は返済がないこと、同市内所在日本共産党岐阜県委員会に対し同三六年六月一、五〇〇、〇〇〇円を貸付けたことをそれぞれ認めることができる。

また、右日本共産党岐阜県委員会に対する貸付金返済については、乙第一一号証、証人山口徳市の証言(第二回)、原告代表者本人尋問の結果によれば、訴外大沢のぶよは同三六年三月岐阜信用金庫忠節支店から別に三五〇万円を借入れそのうち一五〇万円を右委員会に貸付けたこと、右支店からの借入金は同三七年一一月までに返済されていることを各認めることができるので、同人は同年一一月までに右委員会から右一五〇万円の返済を受け、同返済金により右借入金は完済したことが推認される。昭和三九年一〇月から同四二年二、三月ころまでの間に月五〇、〇〇〇円宛三〇回にわたり返済したとする前掲甲第一号証の五、証人山口徳市の証言(第二回)により真正に成立したものと認めることができる乙第一〇号証は前顕各証拠および成立に争いのない乙第一二号証に照らし措信できない。従つて、同訴外人は各係争年中合計二三〇、〇〇〇円の貸付金返済を受けたということができる。

ところで原告の主張によれば、昭和三九年六月二五日から同四二年四月二二日までの間二五回にわたり同訴外人の貸付金返戻・同利息の預入があつたことになるが(別表(五)参照)、右認定のとおり、前記返戻金二〇〇、〇〇〇円については同三九年五月以降同三〇、〇〇〇円については同四〇年一二月二九日以降預入の可能性が生じるところ、これら各返戻貸付金とその預入とを個別具体的に関係ずける証拠は全然ないのであるから前記返戻貸付金合計二三〇、〇〇〇円の預入について係争の何年度中になされたか明らかにしえないのであつて、これを加算すべきでないとする原告主張も採ることができない。

3. 配当金

原告は別表(五)3記載のとおり、その代表者大沢のぶよ所有株式の配当金預入がある旨主張するけれども、その事実を認めさせる適確な証拠はないので右主張事実を認めることができない。

四、原告は、売上除外による本件簿外利益中更に控除すべき飲料水・石けんその他の化粧品(以下、飲料水等という。)の仕入金額がある旨主張する。

原告が飲料水等の売上高の一〇パーセントを販売収益として帳簿に計上していたことは当事者間に争いがない。

原告は右計上額の残額を本件預金口座に預入し、かつ同口座から飲料水等の支払をなしたと主張するが、原告主張の飲料水等売上日計表等(別表(八))を検討すると、飲料水等の売上代金から正当利益額たる販売手数料(計上済額・計上もれ額の合計額)を差し引いたいわゆる預り金額に比較して、原告主張の本件預金口座への預入額が皆無の月(昭和四二年一月)、著しく少ない月(同四〇年七月、八月、一一月、同四一年一一月、一二月)があること、別表(九)〈3〉欄記載のとおり、預入れることのできる毎日の飲料水等売上代金の累積額が、原告の自認する本件預金口座預入金額(同表〈1〉欄。なお、別表(五)参照。)に満たない場合があること、前顕乙第一ないし同第三号証によれば原告が仕入代金を払出したと主張する月末に、別表(一〇)記載のとおり本件預金口座からの払出がなく、また、あつたとしても払出額が支払を要する額に満たない月があること、原告主張の昭和四〇年一一月一六日一五、〇〇〇円の預入、同年一二月三一日五〇、〇〇〇円および同四二年二月二八日三〇、〇〇〇円の各払出の事実がないことをそれぞれ認めることができる。

また、成立に争いのない甲第五号証の一ないし三、証人浅野正行の証言によれば、原告主張の前記飲料水等売上日計等における計算関係中、各預入金額の預入および各飲料水等商品原価相当額の支払と本件預金口座との結び付き、または対照に関する部分は、同日計表等作成者浅野正行が原告代表者大沢のぶよの申立てに基づき、これを裏付ける資料もないまま推定を加えた結果にすぎず、右部分に沿う原告代表者本人尋問の結果はにわかに措信しがたい。

さらに証人藤田ミツヱの証言により真正に成立したものと認めることができる甲第二号証の一、二、同証人、同高島康彰の各証言によれば、原告は訴外藤田ミツヱ、同高島康彰等から飲料水等を仕入れ、現金で支払をなしていたことを認めることができるが、右支払が本件預金口座からなされたことを認めるにたりる適切な証拠はなく、他に、原告の主張事実を認めさせるにたりる証拠はない。してみると本件預金口座について飲料水等の売上代金の預入・同仕入代金の払出があつたとする原告主張は採ることができない。

五、以上の次第であるから、中村税務署長が別表(三)記載のとおり各係争年度における売上除外を原告申告の所得金額に加算し、更に当事者間争いない法人税額等還付金減算誤まり分および補償金もれを加算し、同じく未納事業税を減算してなした本件各更正処分は適法である。

六、さて、前記二ないし四において認定したとおり、原告は売上の一部を除外して簿外預金として本件預金口座に預入していたところ、右口座からの各係争年度中払出金が飲料水等代金支払に当てられたことはなく、また、右口座からの払出は主として原告代表社員訴外大沢のぶよの生活費等の個人的使途のためになされたので、従つて、当事者間に格別争いのない同訴外人の個人資金預入額を払出したと認められる金額および本件各預金口座間の振替による預入額を払出したと認められる金額を右払出金合計額から控除した別表(七)記載被告主張の金額は同訴外人の収入金額とみることができる。

ところで所得税法にいう給与とは被用者がその地位に基づいて使用者から受けるすべての給付をいい、当該給付が給与であるかどうかは給付額・給付形式・費消の態様等給付の経済的実質的性質により判定すべきものである。ところで本件預金口座が原告の簿外預金であり、また、本件払出は主として原告代表者大沢のぶよがその個人的使途のためなしたものであることは先に認定したとおりであり、さらに前顕乙第四、第五号証、原告代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、本件各係争年中、大沢のぶよは使用者たる原告の代表者として役務を提供し、その対価として毎月相当額の給料を受領していたほか、同人は本件預金口座を支配し、必要のときはその都度払出をなすなどして利益を受けていたことを認めることができるのである。而して右認定事実を覆えすにたりる証拠はない。従つて大沢のぶよが本件払出により受けた利益は原告会社の簿外利益の処分による賞与ということができる。

従つて、中村税務署長が前記収入金額を給与と認定したうえなした本件各納税告知処分は適法ということができる。

七、以上の次第であるから、本件各更正処分および同各納税告知処分の取消を求める本訴各請求はいずれも理由がないから失当として棄却することにし、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 鏑木重明 裁判官 樋口直)

〈省略〉

但し、係争第一年度=昭和三九年五月一日~同四〇年四月三〇日

同 第二年度=同 四〇年五月一日~同四一年四月三〇日

同 第三年度=同 四一年五月一日~同四二年四月三〇日

別表(二)

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別表(三)

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別表 表(四) 売上除外認定預金額

〈省略〉

(注) 原告が売上除外と認めた額からさらに仕入計上もれ分を引いたものが原告が所得加算を認める額である。

別表(五) 売上除外認定預金額内訳

(注) 原告の認否は、認める-〇 否認-×で表示

1. 係争第一年度

(1) 江尾幸子名義預金預入分

〈省略〉

2. 係争第二年度

(1) 江尾幸子名義預金預入分

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(2) 東京子名義預金預入分

〈省略〉

3. 係争第三年度

(1) 東京子名義預金預入分

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(2) 杉山領一名義預金預入分

〈省略〉

別表(六) 仕入代金もれ額を一部認容した場合の所得金額計算表

〈省略〉

別表(七) 給与認定額算出表

(一) 係争第一年度

(1) 仮名預金の出金額

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(2) 個人資金の預入れ額および預金振替え額

〈省略〉

(3) 給与と認定した額

(1)-(2)=一、四六四、八五二円

(二) 係争第二年度

(1) 仮名預金の出金額

〈省略〉

(2) 個人資金の預入れ額および預金振替え額

〈省略〉

(3) 給与と認定した額

(1)-(2)=一、五〇三、五一九円

(三) 係争第三年度

(1) 仮名預金の出金額

〈省略〉

(2) 個人資金の預入れ額および預金振替え額

〈省略〉

(3) 給与と認定した額

(1)-(2)=一、〇六二、六四八円

別表(八)

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39/5

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39/6

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39/7

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39/8

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39/9

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39/10

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39/11

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39/12

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40/1

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40/2

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40/3

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40/4

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40/5

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40/6

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40/7

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40/8

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40/9

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40/10

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40/11

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40/12

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41/1

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41/2

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41/3

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41/4

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41/5

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41/6

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41/7

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41/8

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41/9

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41/10

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41/11

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41/12

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42/1

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42/2

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42/3

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42/4

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別表(九)

係争第一年度

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係争第二年度

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係争第三年度

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別表(一〇)

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